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第5話:黄金時代 – 小さな砦の戦いと祝祭の記憶

むかしむかし、ある高台に、川を見下ろす小さな砦がありました。
そこには、まだ半人前の若武者と、飄々とした年老いた軍師がともに暮らしていました。

軍師は奇抜な策と天然な言動で砦を守りながら、若武者に知恵を授けていました。
ところがある日、軍師はこう言いました。

「わし、来月で辞めるから」

若武者は言葉を失いました。
しかし軍師は笑って言いました。

「色々と痛い目を見て、成長していくもんじゃよ」

こうして若武者は、一国一城の主となったのです。
仲間たちと共に砦を守り、工夫と笑いに満ちた日々が始まります。
これは、小さな砦の“黄金時代”の物語。

🌀 師匠との別れ、そして“現実”

ある日、師匠が唐突に告げた。

「私、退職するから」

……なん、だと?

口では不満をぶーぶー言いながらも、どこかこの生活が続くと信じていた。
だが、有休消化が始まると、現実がじわじわと押し寄せてくる。

――あれ? 引き継ぎ、ほとんど受けてなくない?

……まぁ、いいか。
教わることは、もう全部教わったのかもしれない。
あとは自分の“色”をつけていくだけだ。

最後に師匠が言った。

「いろいろと痛い目を見て、成長していくもんだよ」

この言葉は、今でもずっと胸に残っている。


🚪 そしてもう一人、去りゆく仲間

残ると思っていた頼りの男性職員までもが、まさかの宣言。

「仲間とグループホームを立ち上げることになってさ。長年の夢だったんだ」

……マジか。
でも、彼は追い続けていた夢を実現しようとしていた。 「うらやましいな」そう思った。

さて、これで俺が現場の中心。 本当にゼロベースから、また作り直すしかなかった。

いきなり“最高戦力”が二人も抜けるという、前代未聞の状況。

黄金時代は、ここから始まった。


🔧 強みを掛け合わせて支える日々

新体制では、パートさんたちも戦力の要。
自分もパート上がりだったから、できるだけ巻き込んで一緒に作っていきたかった。

たとえば、スポーツセンターでの外出支援。
「体を動かすのが得意なパートさんがいれば、それを活かす」
――支援は、チーム戦だった。

アセスメント票も一緒に作成。
相談し合い、アイデアを出し合い、共に形にしていく。
まさに「現場発」の支援だった。

休んでもお互い様。足りないなら足りないで知恵を絞った。


📚 知識を力に、即・実践

「構造化って、ただ仕切ればいいってもんじゃないよね?」

パーテーションを置くだけじゃ、意味がない。
強度行動障害の論文を読み漁り、カードや構造のあり方を全員で試行錯誤。
試す。失敗する。直す。うまくいく。
そんな毎日の繰り返し。


💰 加算と事務と、最強のタッグ

請求を担当している事務員さんとは妙に馬が合った。
「ねぇ、こういう加算あるの知ってる?」
「え、マジで?」

そこから興味が爆発。
加算に関する事柄を調べて、研究。
「使える制度は、全部使ってやる」精神で、一つずつ自分のスキルになっていった。


🎉 飲み会は“祝祭”だった

事業所での飲み会は、まさにお祭りだった。

家族もOK、カラオケあり、他の一般客も巻き込んで夜中まで大騒ぎ。

他法人の職員も巻き込み、支援談義で盛り上がる夜。
砦は小さくても、心はいつもデカかった。


🏫 PTA会長という“異世界転生”

気づいたら、なぜかPTA会長になっていた。
理由は「地域活動や育児に熱心な父親」という、壮大な誤解だった。

……だーかーらー!

学級通信なんて一度も読んだことないわ!

マンションの管理人さんからは誇らしげに、

「ついに! うちのマンションからPTA会長が! 名誉なことですよ!」

……おまえはじいやか!

さらに、子どもの通っていた幼稚園の副園長先生からは、

「うちの卒園児のパパがPTA会長になったなんて誇らしいわ」

……いやいや、ばあやか!!

何度でも言うが、俺はPTA向きの人間じゃない!!正直もっとふさわしい人ならいくらでもいるだろう。

それでもやっていくうちに、多少なりとは様になっていたのかな。先輩がたと比べるとあまりいい会長ではなかったと思うけど、学校とも深くかかわったり、色々な保護者と交流も出来た。地域とも交流が出来て、悪くはないなと思っていた。

……そしてある日。

「優良PTA会長」として全国表彰されることになった。理由は会長会議でどこか一校出さなければならずなんか決まっていた。ホテルニューオータニ行けるしいいかな?そんな軽い気持ちだった。そもそも大した活動してないし落選するだろう。

だが、現実は非情だった。通ってしまった・・・

会場には颯爽と歩く和装の女性会長、その後ろに付き従うなんだか思いつめた表情の副会長らしき侍女スタイルの女性。姫!私がお供します!って雰囲気だった。盗賊が出てきたらきっとその副会長は短剣をどっからともなく出して身を挺して守るのだろうな・・・。
別の団体では、王子と護衛騎士のような会長&副会長コンビ。長年戦争を一緒に戦ってきた主従を超えた戦友って雰囲気を醸し出していた。太陽王子と黒騎士って感じ。王子は白馬に乗って、黒騎士は黒い馬に乗って戦場を無双したに違いない。あたりを見回すと皆一様に副会長が従者のように付き従っている。フリーザ様とその御一行みたいな集団もいた。

なんなんだ?ここは異世界か?王族のパーティーにでも放り込まれたのか?

俺は、ひとり。よれよれスーツでぽつーん。・・・だって誰も行きたがらないんだもん。ここで人望のなさが窺えるへなちょこ会長である。

なんだこの世界。早く終われ、この表彰式。

途中で居眠りしていたのは、ここだけの話だ。

ただ、会長を離任する頃には人間的にちょっぴり成長した気がする。今でもまだ地域の活動をしている。悪い事ばかりでなく楽しい事も沢山あった。これもまた俺の今を形成している一つだ。


🌟 「比べなくていい」場所を見つけた

この頃になると、他人と比較する癖が消えていた。

「自分で決めて、自分でやって、自分の責任で動く」
そんな環境にいたからこそ、周囲を気にする暇がなかったのかもしれない。

あの頃、全部がうまくいっていたわけじゃない。
でも――

仕事でもPTAでもどこでも「笑い合える毎日」が、そこには確かにあった。

それが、俺の黄金時代だった。

そして――静かに迫りくる波

加算も、支援も、研修も、PTAも、全部が面白かった。

でも――

どんなに煌めいていても、季節は巡る。 世界に忍び寄る静かな波が、少しずつ、でも確実に、日常を蝕み始めていた。

そう、あれは――

コロナ禍のはじまりだった。