私の名前は川内崇浩 最近ブラックコーヒーを買うようになりやっと大人の仲間入りができた感じているしがない経営者だ
職員図鑑も、とうとうVol.3まで来てしまった。
最初は軽い気持ちで始めたはずなのだが、気がつけば10種類目である。
福祉の森は広い。
そして、妙な職員が多い。
今回はいよいよ最終回。
……たぶん。
No.8 聖騎士
福祉の森には、時々ものすごく真面目な職員がいる。
利用者さんのためなら休憩時間を削る。
勤務時間が終わっても仕事が残っていれば帰らない。
休日でも何かあれば連絡を確認する。
そして言う。
「利用者さんのためですから!」
まぶしい。
あまりにもまぶしい。
おそらく聖属性である。
こういう職員を、私は勝手に聖騎士と呼んでいる。
聖騎士は強い。
困っている利用者さんがいれば動く。
職員が困っていれば助ける。
急な欠勤が出れば、
「私、出ますよ!」
と言う。
管理者からすると非常にありがたい存在である。
ただし。
聖騎士が増えすぎると、職場全体が聖域になる。
「〇〇さんは休憩取らずにやってるよ」
「昨日も残ってくれたよ」
「みんな利用者さんのために頑張ってるんだから」
いつの間にか、
聖騎士であることが標準装備になる。
これは危ない。
本来、聖騎士はレア職なのである。
全員に聖剣を持たせてはいけない。
休憩は取る。
休みの日は休む。
勤務時間が終わったら帰る。
それでも回る仕組みを作るのが組織の仕事である。
さもないと、ある日突然、別の騎士団がやってくる。
労働基準監督署である。
こちらの騎士団は強い。
しかも聖属性が通用しない。
「利用者さんのために……」
と言っても、
「そうですか。ところで勤怠記録を見せてください」
で終わる。
福祉に熱意は必要だと思う。
でも、熱意だけで職場を回してはいけない。
長く働けること。
ちゃんと休めること。
明日も普通に出勤できること。
それもまた、利用者さんのためなのである。
聖騎士よ。
今日はもう帰ろう。
魔王は明日でも倒せる。
No.9 デジタルデビルサマナー
福祉の森にも、デジタル化の波が押し寄せている。
そんな中、たまに現れる。
パソコンに妙に詳しい職員。
Excelが得意。
Wordも得意。
プリンターがおかしくなれば直す。
Wi-Fiが切れれば、とりあえずルーターを見る。
業務を見ながら、
「これ、毎回手入力してるんですか?」
などと言い出す。
そして翌週。
謎のExcelファイルが完成している。
ボタンを押す。
一瞬で終わる。
職員一同、
「おお……!」
魔法である。
本人にとっては大したことではない。
「関数入れただけですよ」
と言う。
だが福祉の森では、その関数が古代魔法だったりする。
POPも作れる。
チラシも作れる。
ちょっとした画像加工までできる。
非常に便利である。
ただし、一度その能力が発覚すると終わる。
「〇〇さん、パソコンちょっと見てもらえます?」
「〇〇さん、プリンターが……」
「〇〇さん、この表なんだけど……」
「〇〇さん、Wi-Fiが……」
気がつけば、
法人内ヘルプデスクになっている。
本人は支援員として入職したはずである。
しかし今日もプリンターと戦っている。
ちなみに戦闘能力はあまり高くないことが多い。
力で押すより、相手の話を聞き、距離を取り、刺激を減らす。
物理攻撃より状態異常解除を好む。
デジタルデビルサマナーは、今日も静かに福祉の森を自動化している。
ただし、お願いがある。
「パソコン詳しいんだね!」
と気軽に言ってはいけない。
そこから彼の長い戦いが始まる。
No.10 琉球の風
夏が近づくと、突然そわそわし始める職員がいる。
「今年、沖縄いつ行こうかな」
また行くのか。
去年も行っていた。
その前も行っていた。
もはや旅行ではない。
帰省に近い。
こういう職員を、私は琉球の風と呼んでいる。
琉球の風にとって、夏季休暇は沖縄へ行くために存在する。
他の職員が、
「今年の夏休みどうしようかな」
と考えている頃には、すでに飛行機を取っている。
強い。
そして休み明け。
職場に大量のちんすこうが置かれる。
時々サーターアンダギーもある。
本人は少し日焼けしている。
そして、なぜか海人Tシャツを着ている。
沖縄の知識も豊富である。
「沖縄行くなら〇〇がいいですよ」
聞いていない。
「そこ観光客多いから、こっちの方がいいです」
まだ行くとも言っていない。
「レンタカーなら――」
だからまだ行くとは言っていない。
ちなみに琉球の風と、以前紹介した倭人は相性がいい。
倭人が和柄について語り、
琉球の風が沖縄について語る。
休憩室で突然、文化交流が始まる。
誰も止められない。
ただ、琉球の風が休暇から戻ってくると、職場が少し明るくなる。
お土産を配りながら楽しそうに旅行の話をしている姿を見ると、
まあ、いい休みだったなら何よりである。
職員がちゃんと休んで、好きなところへ行って、元気になって戻ってくる。
聖騎士にも見習ってほしい。
おわりに
これで職員図鑑もNo.10となった。
異世界転生職員。
俺TUEEEEE職員。
ガーディアン。
劉備玄徳。
妖精さん。
森の魔女。
倭人。
聖騎士。
デジタルデビルサマナー。
そして琉球の風。
福祉の森には、本当に色々な職員がいる。
強い人もいる。
不器用な人もいる。
妙なこだわりを持つ人もいる。
やたら沖縄に行く人もいる。
でも、それぞれ違うから職場は面白い。
全員が聖騎士である必要もない。
全員がデジタルデビルサマナーでも困る。
色々な人がいて、それぞれ得意なことを持ち寄って、なんとなく一つの職場ができている。
それくらいでいいのだと思う。
というわけで、
福祉の森で見かける職員図鑑、これにて完結。
長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
また妙な職員を発見したら帰ってくるかもしれない。
……たぶん。
